本研究の主題である超格子構造を有するスピネル型酸化物の構造と物性について詳細に検討を行うため、まずLiCr_yMn_<2-y>O_4およびLiCrTi_yMn_<1-y>O_4のRietveld解析を行った。Cr-Mn系ではCrの置換量の増加に伴い、酸素熱振動パラメーターは減少するのに対して、Cr-Ti系ではTiの置換量がy=0.5までの領域では酸素熱振動パラメーターが増加し、0.5以上では逆に減少した。さらに、熱膨張係数の測定より、このスピネル酸化物におけるM-O結合の強さはCr^<3+>-O>Mn^<3+>-O>Mn^<4+>-O>Ti^<4+>-Oという順になる。このような実験結果を解釈するため、分子動力学法(MD)によるシミュレーションを行った。このシミュレーションには原子間のポテンシャル関数が必要であるため、実験から得られた格子定数と熱膨張の値を用い、各原子のポテンシャル関数ついて幾つかのパラメータを決定した。算出したポテンシャルを用いて、実測値と比較したところ、現実の系とシミュレーションがある程度一致した。このように算出したポテンシャル関数を用いて様々な系についてシミュレーションを行い、平均的・局所的な結晶構造について検討した。まず、MDで16dサイトの2種類の遷移金属を秩序だった配列ら無秩序な配列へ変化させると、結晶構造は立方晶から正方晶に変化することが分かった。次に、局所構造については、LiMn_2O_4のMn^<3+>O_6八面体とMn^<4+>O_6八面体は大きさが異なるため、歪みが生じる。この歪みは2つの八面体に対し、結合の弱い方にしわ寄せが行き、Mn^<3+>O_6八面体が大きく歪むことが分かった。Mn^<3+>の替わりにCr^<3+>O_6八面体やMn^<4+>O_6八面体を導入し、2つの八面体の大きさの違いが小さくなると歪みは緩和され、構造が安定化することがわかった。
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