研究対象である二核錯体は、対応するη^1-型錯体とPd_2(dba)_3との反応により二段階で合成することができるが、さらにより効率の良い合成法となる一段階での合成法の確立に成功した。これは、経済性また不要な廃棄物を生み出さないという観点から非常に重要な進歩をなしえたものと考えている。またこうして簡便に合成した錯体が、求電子試薬である酸クロライドとの反応において中心炭素上で炭素-炭素結合生成反応を引き起こすことを見いだした。以前には炭素ではなくプロトンが反応することを報告しているが炭素を導入可能にしたことで反応の一般性が高まり種々の基質への応用が期待される。さらにこの反応は、理論的には触媒反応への応用が可能であることを示唆している点で非常に興味深い反応となっている。また分子内に求電子部位を有する基質を用いた際には二核錯体の生成を経由したのちに、炭素-炭素結合生成反応までが一気に達成されることも分かった。これもアトムエコノミーという観点からは非常に好ましい反応であるといえよう。この反応の炭素-炭素結合生成の段階においては触媒量のゼロ価パラジウムが重要な役割を果たしていることもわかり今後の研究の展開に対してよりどころとなる指針を得ることができた。 計算化学からのアプローチも行った。合成した二核錯体を単純化したモデルを仮定してワークステーションにて計算を行った。現段階では十分な計算を行うことはできてはいないが、予備的に得られた結果からではあるが、分子軌道の計算結果は、研究計画の妥当性を示していた。
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