有機合成において、新しい炭素-炭素結合反応の開発は重要である。一方、今日の合成反応の開発においては、高収率かつ高効率な反応の開発に主点が置かれているため、環境に優しい合成反応の開発も同時に重要である。そこで本研究は、光と水を用いた環境に優しい光炭素-炭素結合反応の開発を目的に行った。なお、本反応は、光増感剤およびtert-ブチルアミン存在下、水中でアルケンへ増反試薬(アセトン、マロン酸エステル)を付加させ、炭素-炭素結合を形成するものである。 反応は、水酸基を有する脂肪族アルケンおよびアセトンを含む水溶液を高圧水銀灯を用いて光照射して行った。その結果、基質にアセトンが導入され、炭素-炭素結合した生成物が得られた。その収率は、3-ブテン-1-オールで35%、4-ペンテン-1-オールで44%、5-ヘキセン-1-オールで49%であった。なお、tert-ブチルアミンが存在しないとそれらの収率は減少し、水が存在しないとほとんど目的生成物は得られなかった。また、水とアセトンの比率、tert-ブチルアミンの添加量、基質の濃度、光照射時間を変えることで、約25%生成物の収率を増加させることができた。また、ベンゾフェノンを光増感剤に用いれば、マロン酸ジメチルを増反試薬として脂肪族アルケンに導入できることも明らかになった。しかし、芳香族アルケンへの光炭素-炭素結合反応はシス-トランス異性化反応のみが起り、目的生成物を得ることはできなかった。 本反応には水が必要であり、また水の割り合いが増加すると目的生成物の収率が増加することより、水が重要な役割を果たしていることが分かった。水は励起アセトンと基底状態のアセトンの間での逆水素引き抜き反応を抑制し、その結果、効率良く発生したアセトニルラジカルが基質に付加し、炭素-炭素結合を形成したものと考えられる。
|