本年度では、デンドリマー鉄ポルフィリン錯体の中心鉄上で、赤外線により酸素分子の活性化が起こるという極めて特異な現象を見いだした。一連のサイズの異なるデンドリマー鉄ポルフィリン酸素錯体に赤外線を照射すると、サイズの巨大なデンドリマー組織を有する錯体が反応を起こし、オキソ鉄錯体に変化した。この反応には、デンドリマー組織が吸収する1600cm^<-1>の赤外線が有効であった。この系に少量のメタノールを添加した後、スチレンを加えると、エポキシ化反応が起こり、スチレンオキシドが定量的に生成した。詳しい検討から、デンドリマー組織が吸収した多数の赤外線光子が同時に反応に関与していることが分かり、デンドリマー組織の赤外線捕集アンテナ効果が明らかとなった。これは、今まで全く利用されることのなかった赤外線を用いた分子状酸素活性化のアプローチであり、新しいタイプの人工光合成と言える。以上の事実を踏まえ、触媒的な酸素添加反応を目指して、コアにルテニウムポルフィリンを有するデンドリマールテニウムポルフィリン錯体を合成した。ピリジン中、酸素雰囲気下、サイズの大きなデンドリマールテニウムポルフィリンは赤外照射による触媒的な酸素添加反応を引き起こした。これに対して、デンドリマーサイズの小さなルテニウムポルフィリン錯体は赤外線に対して感受性が示されず、酸素添加反応は進行しなかった。
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