セルロース誘導体と芳香族系科学種によるゲルの形成 カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を種々の溶媒と混合した結果、HPCのみがゲルを形成することが分かった。そこで、HPCのゲル化と溶媒の構造との相関を詳細に調べた結果、HPCはアルコール系溶媒、アミド系溶媒、塩素系溶媒、水などの極性溶媒には芳香環の有無に関わらず溶解したが、脂肪族系炭化水素のヘキサン、シクロヘキサンなどには全く溶解せず、芳香族系炭化水素であるベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの無極性溶媒中ではそれぞれ一定量の溶媒を含むゲルを形成することを見出した。また、HPCはこれから芳香族系有機溶媒と同程度の誘電率_Σを持つジオキシサン(Σ=2.2)に溶解した。以上の結果から、このゲル化現象は芳香環の有無と溶媒の極性が深く関わっており、芳香環の電子密度とは相関がないと考えられる。 HPC-芳香族系溶媒ゲルの構造 示差走査熱量測定を行った結果、ベンゼンはゲル中で通常よりも高い融点(7℃)を示すこととHPCの水酸基の赤外吸収ピークがベンゼン中ではブロードになったことからベンゼンとHPCの水酸基の間には何らかの相互作用が存在することが示唆された。またゲルは室温で青く、80℃付近で赤く呈色したので、散乱光挙動を分光光度計で調べたところ、室温で散乱光波長は450nm以下であったのが、温度上昇に伴い短波長シフトし、80℃では300nm以下になるとともに600nm付近の長波長の散乱光強度が強くなることが解った。そこで、X線回折法、円偏光2色性、走査型電子顕微鏡観察によりゲルの構造を調べた結果、ゲルは液晶構造を持っておらず、大きさが数百nmから数umの粒の凝集体が形成されていることが明らかとなった。
|