研究概要 |
種々のセルロースアルキルエステル誘導体とポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とのブレンドの相溶性に及ぼすセルロースエステルの置換基効果、ならびに相溶ブレンドの等温下での結晶化挙動について検討し、以下のような知見を得た。 種々の側鎖長を有するセルロースエステル誘導体[cellulose-OCOC_nH_<2n+1>][側鎖炭素長N=(n+1)=2〜7]のうち、側鎖にブチリル基およびバレリル基を有するセルロースブチレート(CB)、セルロースバリレート(CV)がPCLに対して最もよく相溶する。これよりエステル側鎖長が短い場合は非相溶となり、反対に側鎖長が長い場合でも部分相溶でしかない。但しこの評価は置換度(DS)が概ね2以上の場合の結果であり、DSが低くなる(DS<1.5)とCB,CVもPCLとは非相溶となる。また、セルロース混合エステルの場合、バレリル基もしくはブチリル基が高置換度で導入されている場合に限りPCLと相溶する。化学構造的にPCLと類似しているブチリル基およびバレリル基が多数導入され、両成分の構造上のアフィニティが高くなることが、相溶性発現に大きく寄与していることがわかった。 CV/PCL、CB/PCLに対する融点降下現象の評価より、両成分間には引力的な熱力学的相互作用が介在していることが示された。また、相溶ブレンドの結晶加速度は、セルロースエステル成分含有率の増加に伴って遅延される。ただしCB、CV成分はPCLの結晶化に際して核形成剤として作用しない。さらに、PCLの折りたたみ結晶の界面自由エネルギーはCB、CV含有率の増加に伴って増加し、ブレンドではPCL単独の場合に比べて結晶化しにくいことがわかった。このような、複合化に伴うPCL成分の結晶加速度の遅延は、両成分の相溶性が良好であることを支持している。 上記に加え、キチン誘導体の分子複合系へ本研究を展開するための準備として、新規キチン・キトサン誘導体の合成とその物性評価、および、部分脱アセチル化キチンと親水性ポリマーからなるブレンドの相溶性評価、などを行った。
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