本研究は、ポリシランの放射線グラフト重合による化学修飾、および得られたグラフトポリマーを用いた秩序構造の構築を目的として行ったものである。 前年度の研究においてポリシランが放射線グラフト重合に耐えうるだけの放射線耐性を有することが明らかとなったので、本年度は実際にポリシランに対するグラフト重合を試みた。試料として用いたポリシランは、側鎖がアルキル基のみからなるpoly(methylpropylsilane)(PMPrS)であり、これに対し両親媒性を有するmethyl methacrylate(MMA)のグラフト重合を試みた。トルエン溶液を真空下室温でガンマ線照射することによりグラフトポリマーを得た。GPC、UV、IR、^1H-NMR等の分析結果から、このポリマーがPMPrS主鎖にMMAがグラフト重合したものであることが確認された。 ケイ素原子一個当たりのMMAユニットの導入率で定義されるグラフト率を^1H-NMRスペクトルから求めたところ、総吸収線量、およびMMA濃度の増加とともにグラフト率は増加した。これに対し、線量率が増加した場合にはグラフト率は減少した。今回の一連の実験において到達した最大のグラフト率は0.73であった。 得られたグラフトポリマーの気水界面における挙動を調べるために表面圧-面積等温線の測定を行った。PMPrSホモポリマーでは、高圧縮まで表面圧の上昇が見られず、水面上で3次元的に凝集した糸まり状になっていることが示唆された。一方、グラフトポリマーでは大面積から表面圧が上昇し、MMAユニットの分率に対して極限占有面積を求めたところ、その値はほぼ直線的に変化した。このことから、グラフトポリマーは、PMMA側鎖が気水界面に接して広がり、PMPrSが糸まり状に丸まった形態をとっていることが考えられる。この場合、各ポリマー鎖は凝集せず各々分離して水面上に広がっており、一種の単分子膜を形成していると言うことができる。 以上述べたように、本研究によって、放射線グラフト重合を用いてポリシランに対して有効に化学修飾を行うことができることが明らかとなった。また、放射線グラフト重合により両親媒性を付与したポリシランが単分子膜を形成することが見出された。気水界面単分子膜は人工的な分子集積体として知られるLB膜の前段階であることから、種々のポリシランを用いて人為的な秩序構造の構築を行うための可能性が本研究により示された。
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