本年度は第一に、昨年度の実験から考察された、衝撃波プリカーサ領域における電子生成が衝撃波背後の非平衡現象に与える影響について実験的および理論的に研究を行った。実験ではトリプルプローブ法による計測を、衝撃波前方圧力と衝撃波速度を変化させて実験を行った。その結果、プリカーサでの電子密度は衝撃波速度に強く依存することが確認され、衝撃波速度が12.6km/sでは、衝撃波前方約30mmの領域での電子密度は10の19乗/立方メートルのオーダー(電離度>0.1%)となり、電子温度も約8千K程度となることが確認された。このような高密度で高温の電子は、衝撃波背後からの真空紫外輻射による光電離で生成されると考えられ、衝撃波背後の電離過程にも影響を与えていると予想された。そこで非定常衝撃波解析コードに光電離の効果を導入して解析を行った。その結果、プリカーサの電子特性は光電離モデルを用いて十分に説明できることが確認されたが、衝撃波後方の非平衡過程に与える影響はほとんど認められなかった。現在の光電離モデルでは衝撃波近傍での精度が明らかでなく、これを検証するには衝撃波のより近傍での計測が今後必要である。これとは別に、分子動力学的なアプローチによる衝撃波背後の回転温度非平衡のモデル化を継続して行った。ここではまず既存の二原子分子回転準位間遷移レートを再検討し、非平衡励起準位分布を考慮したレート方程式を導入することで実験結果の放射スペクトルを再現できることが分かった。上記の遷移レートの妥当性を検証すると同時に、分子の回転、振動、解離の連成を考慮した遷移レートを計算するために、現在、二原子分子同士の衝突を分子動力学的に計算している。しかし4原子間の相互ポテンシャルに関する精度が十分でなく、文献に見られる実験結果を未だ正確に再現できていない。これについては次年度以降の課題として研究を継続する予定である。(797文字)
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