平成11年度に行った調査結果の解析を進めるとともに、一部の調査対象地において追加調査を実施した。その結果、藻類群集の種組成は、水域の形状に対応して変化しており、特に、後背水域といわれる、河川の主流路とは別に河道内に存在する水域において、特徴的な藻類群集が見られることが明らかになった。この理由として、水の化学性の違いが考えられたが、主流路と後背水域の間で水の化学性に違いが生じる理由として、後背水域は水域としての孤立性が高く、外の水域との水の交換が起こりにくいため、(1)水域内の藻類などにより消費された栄養塩類の補充が起こりにくい、(2)落葉落枝などの有機物や、その分解産物が滞留しやすい、といったことが推定された。後背水域は、河川水辺の改修により容易に失われるほか、従来型の、流量変動を極力抑えるような河川管理の元では新たな後背水域の形成が阻害され、自然の消滅も進行する。こうして河川における水域の多様性が失われると、藻類の種多様性もまた損なわれる。水域の形状以外に、付着基物や水際の植生、水文学的条件も、藻類群集の種組成に違いをもたらしていたが、その影響は量的なものにとどまり、構成種そのものの変化に至るものではなかった。以上の結果から、藻類の種多様性を維持するためには、主流路の環境、すなわち水辺の形状や植生などを多様にするだけでは不十分で、伏流水の湧出、たまり水など、自然な川原では普通に見られる多様な後背水域が必要であることが指摘できた。こうした水域を確保するためには、河川改修の際に配慮が必要なだけでなく、流量管理においても工夫が必要であろうことが示唆された。
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