Alternaria属菌には宿主特異的毒素を生産する7種の植物病原菌が存在する。これら病原菌は宿主特異的毒素生産性の突然変異により腐生性のA.alternataから成立するものと考えられている。そこで本研究では毒素生産菌の一種タバコ赤星病菌について個体群構造を解析し、本菌の成立機構について検討を行った。リボソームRNA遺伝子(rDNA)のRFLP分析の結果(11年度実施)、日本各地のタバコ圃場から採集された本菌からは多様なrDNA多型が検出された。一方、これら多型の分布頻度は地理的に離れた圃場間でも類似しており、いずれの圃場とも3種の多型(A4、A5、A6と命名)が優先的に分布していた。そこで、平成12年度は当初の計画を変更し、同一圃場内の菌株集団について個体群構造の詳細な検討を行った。鹿児島県加世田市の1つのタバコ圃場(面積約30a)から54菌株を分離し、rDNAのRFLP分析を行ったところ、同圃場にも上述の3種のrDNA多型の菌株が高頻度で分布することが明かとなった。したがって、計画当初の予想と異なり、タバコ赤星病菌では全国的に分布する3種の優先菌系が存在し、集団間に地理的隔離が生じていないことが示唆された。この原因として、腐性生のA.alternataの集団が地理的に隔離されていないことが考えられた。今後、腐性生A.alternataの個体群構造に関する研究を展開することを予定している。一方、rDNAのRFLP分析(11年度実施)およびDNAフィンガープリント分析(12年度実施)により、他の毒素生産菌であるナシ黒斑病菌では、地理的由来を同じくする腐生性A.alternataに極めて遺伝的に類似した菌株が存在することが明かとなった。これら結果は毒素生産菌が腐生性A.alternataから成立することを強く支持するものと考えた。
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