研究概要 |
本研究では,セリシンの機能性を生かした医用材料を開発する目的で,力学的,生体的特性をより良く兼ね備えた試料の作製を模索するため,セリシンをポリビニルアルコール((PVA)に固定したゲル膜の作製を試みた。本年度PVAの重合度を300,500,1000と変えた試料を作製し,以前,重合度1700のPVAを用いた検討を行った{日蚕雑,67,295(1998)}結果と比較検討した。 (1)重合度300,500のPVAを用いた試料は,乾燥試料を蒸留水に浸漬・膨潤させる過程において溶解してしまい,含水ゲル膜試料として使用不可能であることが明らかとなった。そこで実験はすべて重合度1000のPVAを用いた試料にて行い以下のような結果を得た。 (2)PVA結晶の融解温度である220℃付近以上の分解吸熱ピークが全てのブレンド試料で見られず,セリシンの240℃付近の分解に関するブロードな吸熱ピークも観察されなかった。従って,セリシンのブレンドにより,PVA非晶鎖とセリシンが強い相互作用を持ち,PVA非晶鎖の分解を妨げることが明らかになった。 (3)含水率はセリシンのブレンド率が20wt%までは僅かに減少する傾向示しPVA非晶鎖とセリシンとのコンプレックスの形成を示唆する結果を得た。セリシン分率20wt%付近以上では,含水率は増加した。これは相分離の進行により,親水性の大きいセリシン相の増加を意味すると考えられた。 (4)切断強度及び切断伸度はセリシン分率2〜10wt%の範囲でPVA100%試料の値より大きな値を示した。また全てのセリシン分率でヤング率はPVA100%より高い値を示した。 以上の傾向は,PVAが適度な重合度を有する時,セリシンとPVAとの相溶性が良好なことを示唆している。
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