酵母(Saccharomyces cerevisiae)の浸透圧ストレスは、HOG-MAPキナーゼ系によってシグナル伝達される。本申請者は、HOG1遺伝子破壊株、あるいはその機能的上流に位置し、Hog1をリン酸化するMAPキナーゼキナーゼであるPBS2遺伝子破壊株が、カルシウム感受性を示すことを見いだした。一方、S.cerevisiaeではカルシウム処理によってG2期からM期への移行の遅延が起こる。これらの事実から、浸透圧ストレス応答とカルシウムシグナルによる細胞分裂周期の調節という2つの異なった事象を、統一的に理解できるのではないかという着想に至った。即ち、HOG-MAPキナーゼ系は浸透圧ストレス応答に必要な遺伝子の発現を制御しているが、細胞内外の浸透圧バランスがとれていない状態で娘細胞が母細胞から切り離された場合、細胞内成分の漏えい等が起こり、娘細胞、母細胞ともに致死的なダメージを受けることが予想される。これを回避するため、G2/M期のcheckpoint機構としてHOG-MAPキナーゼ系を稼動させて、細胞内環境を整えているのではないかと本申請者は考えた。そこで本研究では、酵母がストレスを負荷された際に示す適応応答が、細胞周期との関係においてcheckpointを通過させるに足る細胞内環境をと整えるための適応として機能しているかどうかを、HOG-MAPキナーゼ系とカルシウムシグナリング系との関係において明らかにすることを目的としている。 そこで、hog1△ 株の示すカルシウム感受性をマルチコピーで抑圧できるサプレッサー遺伝子のクローニングを試みた。YEp13をベクターとして構築したS.cerevisiaeのゲノムDNAライブラリーをhog1△株に導入し、150mMカルシウム含有培地で生育可能なクローンの取得を試みた。その結果、約60株のクローンが得られた。それらの株からプラスミドを調製し、現在、解析を進めている。
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