研究概要 |
無機リン酸がリン酸エステル結合で縮合したリン酸重合体は、ATPと同様にリン酸基供与体として機能していると考えられているが、その詳細は充分解明されていない。本申請研究は、リン酸重合体をリン酸基供与体とする酵素NADキナーゼの構造機能相関の解明を目的とした。今年度の研究で以下の知見を得た。グラム陽性細菌Micrococcus flavusより、リン酸重合体とATPの両方をリン酸基供与体として利用できる新規NADキナーゼを初めて精製し、これをリン酸重合体/ATP-NADキナーゼと命名した。本酵素の内部アミノ酸配列情報を基にして、M.flavus及び結核菌由来の本酵素遺伝子をクローニングし、両酵素の一次構造を決定した。これは、NADキナーゼ遺伝子の初めてのクローニング例であった。両酵素遺伝子を大腸菌内で大量発現させ、精製し、諸性質を決定した。両組み換えNADキナーゼは良く似た諸性質及び一次構造を示した。両精製酵素の結晶化条件を検討し、結核菌NADキナーゼの結晶化に成功した。本結晶は単斜晶系に属し、空間群はC2、格子定数はa=139.88 b=69.25 c=105.89Å β=130.06°、分解能は3.03Åであった。また、非対称単位中にサブユニットを2個を含むと推定された。測定された37,271個の反射の中で、独立反射は12,736個で完全性は97.9%、R_<sym>因子は8.4%であった。本結晶は、NADキナーゼの結晶として初めてのものであり、高い相同性を示す構造既知のタンパク質が知られていない。重原子置換による立体構造を決定するため、幾つかの重原子置換体を調製し、現在、重原子置換体の解析を試みている。一方、大腸菌及び酵母のゲノムデーターベース上に、リン酸重合体/ATP-NADキナーゼの一次構造と相同性を示す遺伝子を見いだした。これらの遺伝子をクローン化後、その産物の諸性質及び一次構造を決定した。その結果、大腸菌及び酵母のNADキナーゼは、リン酸重合体を利用できないATP特異的NADキナーゼであることが分かった。
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