本研究では植物オキシリピン、特に炭素数6あるいは9の短鎖アルデヒド類生成系に着目し、その生合成活性化機構を生化学的、及び遺伝学的に解明しようと試みた。この間の成果は以下の通りである。 まず、トマト果実、及びキュウリ胚軸よりそれぞれ脂肪酸ヒドロペルオキシド(HPO)を開裂して短鎖アルデヒドを生成する酵素、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)遺伝子を単離し、その構造を明らかにするとともに大腸菌発現系を確立しその酵素学的性質を決定した。その結果、トマト果実HPLは13-HPO特異的であったが、キュウリ胚軸HPLは13-HPO、9-HPOともに活性を示した。このキュウリ胚軸HPLはその配列がアレンオキシドシンターゼ(AOS)と類似しており、HPLとAOSの反応機構の類似性が示唆できた。一方、シロイヌナズナでHPL遺伝子を過剰発現、あるいはアンチセンス抑制し、それぞれの短鎖アルデヒド生成量を比較するとともに、これら組み換え体の種々の生物学的ストレスに対する抵抗性を評価した。その結果、シロイヌナズナにおいて短鎖アルデヒド生成系が環境との化学生態学的相互作用確立において重要な役割を担っていることを明らかにした(投稿準備中)。更に、シロイヌナズナゲノムデータベースを検索し、5種の脂質加水分解酵素ホモログを見出し、それぞれをクローニングし、大腸菌での発現系を確立した。これについては現在更に活性を有した組み換えタンパク質の発現系の確立を目指している。また、これらホモログ遺伝子についてはT-DNAノックアウト株のスクリーニングを進め、そのうち2種について単離に成功した。そのひとつはアルデヒド生成能が野生種の3分の1程度に低下しており、この遺伝子が短鎖アルデヒド生成系に関与している可能性を示した(投稿準備中)。
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