黒麹菌Aspergillus aw am ori var.kaw achiが分泌するグルコアミラーゼ(GAI)のGp-I領域結合O-型糖鎖は主に1〜3残基のマンノースからなり、酵素活性や酵素の安定化に関与する。本研究はタンパク質分泌能の優れた麹菌を宿主として、O-型糖鎖を改変したGAIの発現と糖鎖改変GAIの機能解析を目的とする。本年度は、GAIの糖鎖機能を明らかにするため、(1)Ser/Thr残基に最初のマンノースを付加するprotein mannosyltransferaseをコードする黒麹菌のpmt遺伝子クローニングと(2)Gp-I領域変異の黒麹菌GAIの分泌への影響について検討を行った。 (I)昨年度の研究成果としてクローン化したA.nidulansのpmtA遺伝子をDNAプローブとして黒麹菌A.aw am ori var.kaw achiのゲノムライブラリーからpmtA遺伝子をクローニングした。cDNAはRT-PCR法により増幅し、取得した。黒麹菌pmtA遺伝子は4つのイントロンを含む2.5kbからなり、741アミノ酸をコードしていた。また、A.nidulansと最も高い相同性(80.4%)を示したが、酵母や動物細胞由来のPMTとの相同性は19.3〜48.5%であった。疎水性プロット解析によりPmtAは膜貫通タンパク質であることが示唆された。本成果によりpmt遺伝子破壊株構築によるGAI糖鎖の改変が期待できる。 (II)O-型糖鎖結合Gp-I領域を完全に内部欠失した変異型GAI(GAΔGpI)を黒麹菌に導入し、野生型GAI遺伝子と部位特異的に組換えた形質転換体MG301を取得した。野生型及び変異型GAを発現させ、Gp-Iの役割について検討した。マルトースでGAの誘導後、親株ではGAIが多量に分泌したが、MG301ではGAΔGpIは分泌されなかった。また細胞内では、GAは親株では誘導後、1-5時間で認められたが、MG301株においては検出されなかった。また親株に比べMG301株において小胞体シャペロンであるbipA遺伝子の転写量とBipAタンパク質量が増加したことから、GAΔGpIが小胞体において正確に折り畳まれておらず、分解されたものと推察した。以上の結果から、Gp-Iドメインは末端ドメインの正確な折り畳みへと導くことでGAIの分泌に関与することを明らかにした。
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