研究概要 |
本研究では、如何なる環境ストレス条件下でも生育可能な植物(作物)を作成し、最終的に作物の生産能を向上させることを目的に、大腸菌カタラーゼ遺伝子(katE)を導入した形質転換タバコと、既に他のストレス耐性に関与する一遺伝子が導入されている形質転換タバコとの交配による多形質導入形質転換タバコの分子育積の確立を行った。今年度得られた結果は以下に示す通りである。 1.katE導入株(T43-1)とラン藻SynechococcusPCC7942フルクトース-1,6-/セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(FBP/SBPase)遺伝子(fbp/sbp)を導入した形質転換タバコ(TFI-3)を交配し、多形質導入形質転換体を作成した。播種後約12週目のT43-1の雌蕊にTFI-3の花粉を接種することにより交配させた。得られた種子1500株を通常条件下(400μmol/s/m^2、360ppmCO_2、12時間明期/12時間暗期)で栽培したところ、野生株よりも生育が早く、播種8週間後では交配株は野生株に比べて有意に大きくなった。野生株および交配株のカタラーゼ活性を比較したところ、katE導入形質転換体では野生株の2.3倍、交配株では2.2〜4.3倍に上昇していた。この結果より、交配株においても導入したkatEが効率良く発現していることが示唆された。今後、交配種の諸性質(光合成能、生育速度、スクロースおよびデンプン含量など)の比較、強光・乾燥ストレスおよびパラコート処理に対する耐性能の比較、ストレス条件下での生育速度および物質生産能の比較を行っていく。 2.katE導入株(T43-1)と大腸菌マンニトール-1-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(mtlD)を導入した形質転換タバコ(MtlD-4)を交配し、多形質導入形質転換体を作成した。播種後約12週目のT43-1の雌蕊にMtlD-4の花粉を接種することにより交配させた.得られた交配株にkatEが効率良く発現していることは、酵素活性およびウエスタンブロッティングより明らかになった。交配株が野生株に比べて塩ストレスおよび強光・乾燥ストレスに対して耐性を示すことが、視覚的障害の有無、光合成およびクロロフィル蛍光測定より明らかになった。今後、多重遺伝子導入系の確立を行っていく。
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