筆者は、クロコウスバカゲロウ幼虫の唾液に殺虫性蛋白質(ALMB-Toxinと命名)が含まれており、それが各種の昆虫に対して強力な殺虫活性を示すことを独自に見いだした。本研究では、ALMB-Toxinを作物保護に利用するために、遺伝子のクローニングと作用機構の検討を目的とする。本年度は、遺伝子クローニングを試みた。まず、毒素蛋白質の内部アミノ酸配列を数カ所決定した。それを元にRT-PCRにより、cDNAの増幅を試みたが、目的とする遺伝子は増幅されなかった。そこで、発想を転換し、クロコウスバカゲロウそのものは毒素をつくらないのではないかと考えた。すなわち、クロコウスバカゲロウの共生微生物に目を向けたところ、粗毒から単離された細菌が、強力な殺虫活性蛋白質を産生することを見いだした。共生細菌は、Enterobactericiae属する細菌であり、嫌気的条件下、培地のpHをややアルカリ側に調整することにより、殺虫活性蛋白質を効率よく産生した。このような条件で、大量に同共生細菌を培養し、殺虫活性蛋白質の精製を試みた。その結果、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過を組み合わせることにより、殺虫活性蛋白質成分を精製した(投稿準備中)。精製した蛋白質はチャバネゴキブリに対して約10-20ng/insectという強力な殺虫活性を示したが、その分子量は約60kDaであり、ALMB-Toxinの分子量170KDaと異なっていた。これが、翻訳後のプロセッシングによるのか、それとも他にALMB-Toxinを産生する未同定の細菌がいるのか現在検討している。
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