研究概要 |
クロロフィルは,光合成エネルギー転換において中心的な役割を果たしている。その生合成や分解機構は,植物生理に関与していることから注目される。クロロフィルの分解経路は,クロロフィリドを関与した分解経路とクロロフィルのC-13^2位を酸化された物質である 13^2-hydroxychlorophyll aを関与した分解経路が知られている。13^2-hydroxychlorophyll aは,植物をエチレンで処理した時に検出されたが,その形成機構とその分解経路については,ほとんど解明されていない。本研究は,高等植物クロロフィルの分解系を調節する新規化合物(RWH-21)を用いて,クロロフィルの分解機構を研究している。今年度において,タバコ培養細胞を用いた実験系とホウレンソウの無傷葉緑体画分を用いた実験系を用いて検討を行った。 タバコ培養細胞を用いた実験では,RWH-21で処理したタバコ培養細胞中に蓄積したポルフィリン物質を蛍光検出器を備えた逆相HPLCで分析した。RWH-21で処理したタバコ培養細胞中には,13^2-hydroxychlorophyll aの他に,幾つかの蛍光物質の蓄積を検出した。これらの蛍光物質は,13^2-hydroxychlorophyll aより高い水溶性を示し,13^2-hydroxychlorophyll aと類似した蛍光スペクトルを示した。暗条件下でのポルフィリン合成系中間体の蛍光特徴を考慮すると,これらの蛍光物質は,13^2-hydroxychlorophyll aの代謝物質である可能性が高いと考えられる。これらのポリフィリン物質の化学構造を明らかにするために,幾つかの可能な構造を想定し,これら化合物の化学合成を行っている。 ホウレンソウの葉緑体画分を用いた実験では,処理区を無処理区と比べ,明瞭な差が示さなかった。即ち,葉緑体画分を用いた場合には,RWH-21処理区において,13^2-hydroxychlorophyll aの蓄積が示さなかった。その原因としては,葉緑体が壊れやすく,阻害剤の効果を調べるための実験系として,改良する必要があると考えられる。現在,チラコイド膜画分を用いて,検討を行っている。
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