研究概要 |
本研究では,樹木-菌根菌共生系に対する環境変化の影響を,菌根菌間の相互作用の観点から明らかにし,環境の変化に対する森林生態系の安定化機構に果たす菌根菌の役割を考究することを目的とする。特に,我が国を代表する森林の1つであり,近年,世界的に蔓延・拡大しつつある松枯れ病被害に対しての早急な保全対策を講ずる必要のあるアカマツ林を対象として調査を行う。今年度は,松枯れ病被害のないアカマツ林における外生菌根菌の生態を明らかにするために,長野県伊那市のアカマツ天然林内に10m×10mの試験地を設定した。まず,試験地内における外生菌根菌の種組織を明らかにするために,子実体の種組織の調査を行なった。その結果,カレバキツネタケ,マツタケ,マツタケモドキ,フウセンタケ属の1種,キチチタケ,ケロウジ,クロカワの子実体の発生が確認された。これらの種について,ジュネットの分布を明らかにするために必要となるDNA解析の手法を確立するために菌の分離を試みた。その結果,マツタケ,マツタケモドキ,キチチタケについては,菌の分離に成功し,分離した菌株からのDNAの抽出にも成功した。さらに,マツタケについてはジュネットを同定するための有効な遺伝子マーカーであるRAPDマーカーの探索を行い,多型の見られるマーカーを得ることができた。一方,地下部における外生菌根菌の動態と菌根菌間の相互作用を明らかにするために,根系を非破壊的に継続して観察するためのライゾトロンを4月下旬に設置し,1ヶ月毎に外生菌根の形成過程とその後の推移について観察を行った。その結果,6月下旬から外生菌根の形成が認められ,積雪前の11月下旬までに,1つのライゾトロン内に4種の外生菌根の形成が認められた。このうちの2種の外生菌根は,互いに接して分布していたことから,来年度は,この2種の菌根菌間の相互作用について詳細な調査を行う予定である。
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