研究概要 |
東京農工大学大谷山演習林には,森林生態系における物質循環を長時間にわたり調査するため20年前設置されたスギ・ヒノキ壮齢林小流域試験地がある。本研究の目的は,この小流域試験地において無機成分ばかりでなく,溶存有機物も含めた物質循環特性を明らかにすることにある。 本年度は,スギ林とヒノキ林においてそれぞれ,リターフォールを6ヵ所と4ヵ所,林内雨を各1ヵ所,樹幹流を各3ヵ所,A_o層通過雨・表層土層通過雨を各6ヵ所,土壌水(深さ5,15,30,50,80,または100cm)を8ヵ所と4ヵ所より,同試験地の渓流において湧水・渓流水を採取・分析した。また,地表面CO_2フラックスおよび土壌中CO_2濃度(深さは土壌水と同じ)の測定をスギ林12ヵ所,ヒノキ林6ヵ所でおこない,試験地の中央のスギ林においてデータロガーによる地温(深さは0cm+土壌水と同じ)および土壌水分(深さ10,15,30,50cm各4ヵ所),渓流水温の測定を開始した。 本試験地を降雨に伴って移動する水の溶存有機態炭素量(DOC)は,スギ林・ヒノキ林ともに地温の高い夏期に高い傾向が見られ,地表面CO_2フラックスおよび土壌中CO_2濃度の高まりも同様であった。夏期のDOC濃度は,林外雨<林内雨<樹幹流・A_o層通過雨と高まり,A_o層通過雨>表層土層通過雨>土壌水・湧水と渓流水に至るまでに激減し,特に表層土層通過雨と土壌水5cm間の減少が著しかった。DOCは,易分解性の有機物として林木やA_o層から溶出し,土壌表層において微生物によりただちに消費され、森林生態系においてその大部分が内部循環している考えられる。 次年度は,DOCの量的な動態と地表面および土壌中CO_2フラックスとの関係の解析,降雨イベントにおける時間単位でのDOCの変動,特に渓流からの流出速度の把握,必要に応じて試験流域の一部伐採の影響調査などをおこなう。
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