土壌中の窒素の形態変化は、従属栄養性微生物によるアンモニア化とそれに続く独立栄養性微生物による硝化作用、さらにアンモニア・硝酸の従属栄養性微生物による不動化によって生じる。これらのことから、エネルギー源としての炭素源の有無が窒素の形態と深く関わっていると考えられた。しかし、炭素源は土壌中に多量に存在し、窒素の形態変化に寄与している画分についての情報が十分とはいえない。本年度は、炭素源に関するアプローチとして、分解過程が大きく異なることが指摘されている、わが国の温帯常緑針葉樹林の土壌と乾燥熱帯であるタイの森林土壌を長期培養することによって、培養に伴う窒素の形態変化と土壌の炭素源との関係を調査した。温帯の常緑針葉樹林土壌は、5ヶ月にわたる培養期間を通じて、可水溶性有機炭素濃度の上昇がみられた。一方、乾燥熱帯の土壌では、どの森林タイプの土壌も培養開始後1週間から4週間で可水溶性有機炭素濃度は低下した。また、可水溶性有機炭素濃度の可給性を調べるため、土壌微生物バイオマスを調査した。可水溶性有機炭素と微生物態炭素の間には、乾燥熱帯のみで有意な相関関係がみられ、温帯の常緑針葉樹林では有意な関係はみられなかった。これらのことから、可水溶性有機炭素の生物的可給性が温帯と乾燥熱帯では異なり、乾燥熱帯では可水溶性有機炭素中に多くの可給態画分が含まれていることが示唆された。来年度以降は、窒素形態変化に関わる炭素源に関して、乾燥熱帯の土壌中の可水溶性有機炭素を用いてさらに実験をすすめていく予定である。
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