研究概要 |
地表面でのエネルギー交換過程において、純放射量の潜熱エネルギーと顕熱エネルギーへの分配様式は最大の関心事である。特に植生面は、蒸散によって潜熱エネルギーへの変換が促進されるという特徴を持つ。潜熱エネルギー交換に繋がる土壌から植生を通じて大気に向かう水の流れに関してSPACという概念を考えたとき、P(植生)は単なる水みちではない。植生体内に一旦蓄えられてから大気へ至る水の量は無視できないほど大きく、また、植生体内の貯留水は乾燥環境下においても気孔を開き光合成・蒸散を継続させる。よって、特に樹木-森林ではその物理的サイズ故に、樹体内貯留水がエネルギー交換過程に及ぼす影響は大きいと考えられた。樹体内貯留水は樹体内の各器官に流入・出する水量差の総和である。境界条件としての流出は葉からの蒸散であり、流入は根からの吸水である。葉からの蒸散はポテンシャルの低下を生み出し、これが根まで伝播して吸水と樹体内の水移動を生み出す。よって、SPACの中に樹体内貯留水を考慮した植生内水移動モデルを組み込む場合、蒸散、吸水、樹体内貯留水、樹体内ポテンシャル分布が統合的に記述されるようなモデルを考えることが道理に合っているといえよう。本年度の成果として、樹体内の水移動・貯留に関して(1)水は円錐形に近似された樹体の中で導管を模した細管中をポテンシャル勾配によって移動する,(2)樹体各部位での流入・出差がそこでの貯留水量となる,(3)樹体内のある部位での貯留水量とポテンシャルには一定の関係がある(ここでは、対数関数)、という条件のもとに、既往の気孔コンダクタンスモデル、光合成モデル、根吸水モデルを連結させて、単木レベルでの吸水・貯留・蒸散・光合成を記述する非定常シミュレーションモデルを構築・完成させた。さらに、既往の計測結果を用いて本モデルの正当性を示し、最終的な目標である森林-環境相互作用系モデルの樹木部分を担うモデルとしての評価も行った。
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