樹木のストレス耐性には種間差があり、どのような機能によってこの種間間が生じるのかを明らかにするために、樹木枯死の原因である活性酸素種を効率よく消去できる抗酸化物質に注目し、樹木葉内の抗酸化物質の機能及び環境ストレス、光合成阻害、抗酸化物質、活性酸素種との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。 全樹種のクロロフィル/全カロチノイド比は一定であり、草本植物にはほとんど見られないα-カロチン(α-Car)が多くの樹種に見出された。しかし、夏季に比べ冬季での全Carに対するβ-Car比は小さく、α-Carが夏季における熱ストレスに対して有効であることが示唆された。全樹種においてカロチノイド組成はほぼ一定であり、その葉内含量の季節変化が大きいことは、樹木全般にカロチノイドによる適応機構が存在していると考えられる。対照的に葉齢と共にその比は大きくなっており、季節的なストレスと老化ストレスとは異なっていた。落葉針葉樹のアスコルビン酸(AsA)含量を測定した結果、緩やかな季節変化に対して活性酸素の消去のためにAsAが有効に働いていたが、過剰な環境変化では葉内のAsAが急激に消費され、AsA再生系が成立せず、AsAによる活性酸素の消去能力が制限されていることが示唆された。また、常緑樹葉のAsA・トコフェロール(Toc)量の季節変化から、in vivoにおいてもAsA/Toc再生系が働いていると考えられる。秋の低温馴化により、常緑樹ではToc含量が増加しチラコイド膜の過酸化が抑制されていたことから、温度ストレスによる膜の過酸化に対してTocが有効であることが示された。また、一部の抗酸化物質が輸送タンパク質により反応部位に移動することを示した。これは、環境ストレス適応樹木が葉内抗酸化物質量を変化させることにより、ストレス耐性能を獲得し、その代謝制御が葉緑体内のストロマタンパク質により行われていることを示唆している。
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