研究概要 |
1.濃厚水溶液における糖およびリグニン前駆体のクラスター形成 糖によって取り囲まれた疎水性物質の溶解状況を検討するために,ピレンをモデル物質として種々の糖濃厚溶液に対する溶解度を測定した。その結果,ヘミセルロースを構成する糖であるガラクトースではCH基のα面への偏分布が疎水性相互作用に大きく寄与するという予測を裏付けた。また,同じグルコースの二糖であるマルトース,トレハロース,セロビオースでの比較実験から糖-糖間の結合角も大きく関与し,さらには糖の疎水性相互作用には疎水性物質側の芳香環π電子の存在が重要であり,細胞壁中ではリグニンの芳香環と多糖類が相互作用すると推測した。 2.リグニン前駆体の糖濃厚ゲル中における拡散速度 リグニン前駆体の拡散速度はリグニン前駆体の種類に大きな差異はなく,ほとんど溶媒の粘度に依存した。植物細胞壁での多糖類ゲル中では酵素や重合進行中のリグニンはほとんど動かないことから,ラジカル化されたリグニン前駆体がイオン化されたリグニン重合物に反応するものと推測される。 3.疎水性相互作用によって引き起こされるリグニン前駆体の電子密度変化 分子軌道法を用いて各種リグニン前駆体の最適コンフォメーション,溶媒和エネルギー,電子密度,イオン化ポテンシャルを求めた結果,フェノール性水酸基とメトキシル基間の水素結合が溶媒環境によって大きく変化し,その結果一電子酸化反応が溶媒環境によって大きく変化するシミュレーション結果を得た。これは,リグニン前駆体が重合は,周囲の極性・非極性環境に大きく影響を受けることを意味している。
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