1.オボグロブリンによる感染抑制機構の解明 マガキ幼生への病原性ビブリオ菌の人為感染系に対し、オボグロブリンを10μg/mLの濃度で添加した結果、無添加ビブリオ感染区の幼生の生存率は接種後24時間で0%、すなわち全部の個体が死亡したのに対し、オボグロブリン添加区では96.5%の幼生が生存するという極めて高い感染抑制効果を有することが明らかになった。オボグロブリンは幼生に対して全く悪い影響がなく、動きも正常でその後の成長にも問題はみられなかった。実験で用いたオボグロブリンは部分精製品で複数の成分を含むため、どの成分に感染抑制効果があるのかを調べる目的で、オボグロブリンをカラムクロマトグラフィーで分画し、各々の精製画分を単独で感染系に添加した結果、分子量72万の高分子タンパクであるオボマクログロブリンが感染抑制分子であることが証明できた。続いて、感染抑制の機構について検討した結果、オボマクログロブリンは殺菌活性を持つタンパクではないが、静菌的に病原性ビブリオの増殖を抑えること、その増殖抑制効果はビブリオの産生するプロテアーゼの活性を阻害することで現れることを明らかにした。そして、このプロテアーゼが幼生の組織に壊死を引き起こす原因物質であり、オボマクログロブリンの添加によってプロテアーゼの活性を不可逆的に阻害する条件を作製すると通常の感染実験の10倍という高密度の菌体を感染しても幼生に組織壊死はみられず、感染は抑制されるとともに、生存率も大幅に上昇することが示された。また、オボマクログロブリンの感染抑制効果を効率よく発揮させるには、幼生を飼育している水槽をエアレーションによって緩やかに撹拌すること、そして微量の糖溶液を添加することが重要であった。
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