耳石に刻まれる日周輪やチェックリング読みとりの正確性を増し、さらなる情報を解読するためには、内耳内リンパ液の微量採取法、イオン組織測定法、耳石有機基質生活性測定法を確立し、それらが日周輪・チェックリング形成に果す役割を解明することが必要である。 今年度はニジマス内リンパ液の微量採取法を確立し、1個体のニジマスの左右の内耳内リンパ液を用いることにより、内リンパ液の総カルシウム濃度、重炭酸イオン濃度、ナトリウム濃度、カリウム濃度、pHを測定することができるようになった。これらから、炭酸カルシウム結晶に対する内リンパ液の飽和度の計算が1個体ごとに可能になった。また、内リンパ液中の基質タンパク濃度の測定法を現在開発中である。 この方法を用いて内リンパ液イオン組成の日周変化を調べた。カルシウム濃度には有意な日周変化が確認されたが、重炭酸濃度はカルシウム濃度が高い個体では低い傾向が認められ、結果として計算される飽和度には有意な日周変化はなく、非常に安定していた。また、55kDa耳石有機基質タンパク(OMP-1)の発現の日周変化をノザンブロット法で調べたが有意な差を確認できなかった。 次にニジマスを海水に移行した時の内リンパ液イオン濃度の変化を調べた。移行後5日目、海水群において有意にカルシウム濃度が高く、逆に重炭酸イオン濃度が低かった。その結果飽和度には有意な差が認められなかった。 以上二つの実験の結果は、内リンパ液のカルシウム濃度と重炭酸濃度には逆相関が存在し、結果として内リンパ液の飽和度が常に一定に保たれていることを示唆する。 今後各種ストレスの影響を更に比較し、内リンパ液のカルシウム・重炭酸濃度と飽和度の関係を詳細に調べ、日周輪およびチェックリング形成との関係を解明する予定である。また、OMP-1遺伝子発現量のもっと感度の高い定量法、たとえば競合PCR法などを開発する必要がある。
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