異体類の種苗生産において、白化・黒化および逆位など変態期の左右非対称性に関する形態異常が問題になっている。そのため逆位個体など「結果として」の形態異常に関する報告は多く見られるが、異常の「発現の機構」にせまる試みはなされていない。そこで、ヒラメ変態期の眼の移動に関係した硬組織の形成過程を詳細に明らかにし、眼の移動を細胞レベルで論ずる基盤とすることを目的とした。 ヒラメ変態期には甲状腺ホルモンによって眼の移動が促進されることが知られているが、具体的にどの骨のどの方向への成長が調節されているかは明らかではない。そこで甲状腺ホルモンのT4(100ng/ml)あるいは、甲状腺ホルモンの合成阻害剤であるチオウレア(30ug/ml)に様々な段階でヒラメ仔稚魚を浸漬した。チオウレアへの浸漬によって変態は全般的に遅延するが、特にPseudomesial Barという眼の移動に不可欠とされる硬骨の骨化が見られた。他の骨要素や体色等にも浸漬するステージによって遅延の有無が観察され、組織毎に甲状腺ホルモン感受性が異なることが明らかとなった。また、T4に浸漬した群では、仔魚に特有な形質である伸長鰭条はどのステージからの浸漬によっても短縮が促進されたが、眼の移動についてはステージ特異的な促進効果が観察された。これらのことは発達に自動的にリンクしておこる変化とは別に、甲状腺ホルモンサージによってのみ促進される機構があることを示唆する。すなわち、種苗生産過程で起こる形態異常の原因として、発達過程の適切なタイミングで甲状腺ホルモンサージが起こっていない可能性がある。 また、ヒラメ変態期仔魚の伸長鰭条の培養系を参考にして、硬組織を含む眼の周囲全体の組織培養系の確立を試みたが、本年度は培養自身に失敗したため、この点では結果は得られなかった。
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