有毒渦鞭毛藻Alexandrium属は、異なる二つの接合型を持つ細胞が接合を行い、環境の悪変に対して耐久性を持つ休眠性接合子(シスト)を形成する有性生殖の生活環を有する。シストは、翌年春のブルーム発生の「種集団」として非常に重要視されており、どの様な条件によりシスト形成が誘起・促進されるのか、そのメカニズムを明らかにすることは極めて重要である。 著者は、シスト形成誘起因子として従来全く考慮に入れられていなかった細菌に注目して、本藻のシスト形成に与える影響について解析してきた。その結果、本有毒藻のブルーム発生時の現場細菌群集が、強いシスト形成促進活性を持ち、その動態は本有毒藻の消長と正の相関関係にあることを明らかにした(Adachi et al.1999)。さらに、シスト形成促進細菌を多数分離し、その群集組成を明らかにした。 本年度は、現場海水中に含まれるであろうシスト形成阻害菌に注目した。その結果、 1.Alexandrium属が毎年発生する広島湾の現場海水中には、本藻のブルーム発生とは関わりなく年間と通じてシスト形成阻害菌が存在していることを明らかにした。 2.広島湾の現場海水試料より計30株のシスト形成阻害菌の分離に成功した。 3.これら30株の細菌の16SリボソーマルRNA遺伝子(16SrDNA)をPCR法により増幅し、得られた増幅産物を数種の制限酵素により消化・比較した結果、これらの株はタイプIa-IdとタイプIIの計5タイプに群別化可能であることが判明した。このうちタイプIに属する株は、年間を通じて多数分離された。 以上のことから、シスト形成促進菌のみならずシスト形成阻害菌が現場における本藻のシスト形成にとって生態的に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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