研究概要 |
ウナギの環境因子と性分化のメカニズムに関する生理生態学的知見を得るため、個体群密度とそれに依存して最も顕著な変化を示すなわばり行動の発現に着目し、性の分化を左右する環境条件を調べた。性分化前の体長12cm前後まで飼育した日本産の黄ウナギを用い、底質条件として砂利の有る場合と無い場合でそれぞれの個体群密度を1、2、3、6、12、24尾に設定して市販の60cm角形ガラス水槽に分配し、生殖腺の性が決定する体長20cm以上まで飼育を行った。並行して飼育期間中、昼夜にわたりビデオ撮影を行い、性決定期に至る過程でのなわばり行動・攻撃行動の様式の分類とその頻度の定量化を行った。行動観察の結果、体長6cmのシラス期には密度および底質材いずれの条件下でも夜間活動型の日周行動リズムを有したが、攻撃行動は殆ど認められなかった。しかし、体長9cmの黄ウナギ期に達すると低密度もしくは砂利のある条件下では夜間に遊泳、攻撃行動(nipping,chasingなど)の頻度が高くなる明白な夜間行動型の日周リズムを示し、性分化期の体長16cmの個体でとりわけ激しく観察された。一方、養殖環境と同様の高密度もしくは砂利の無い飼育条件下では明白な日周行動リズムを示さず、昼夜に渡って攻撃行動などの個体間の接触度が高かった。以上の結果から養殖条件のように底質材の無い高密度で飼育を行うと日周活動リズムは黄ウナギに至る段階で消失し、常に他個体との接触や闘争が避けられない環境下に置かれていることが明らかになった。このことは群内の闘争によって生じるストレスがウナギの性分化に何らかの影響を及ぼしている可能性が高い。しかし、生殖腺の性に関してはどの飼育群においても完全な卵巣を有する雌は出現せず、行動生態と性分化の関連は認められなかった。
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