ウナギの性分化に影響を及ぼす環境要因とそのメカニズムを明らかにするため、本年度は個体群密度に伴う社会的ストレスの影響に加えて栄養条件(天然餌料と人工餌料)等の複合因子の影響も併せて検証するとともに、性分化に及ぼす影響を内分泌系(脳神経ホルモン-下垂体ホルモン-腺ホルモン系)を中心とした生理学的側面から調査した。 天然餌料(アカムシ)と人工餌料を与え、市販の60cm角形ガラス水槽で飼育した群と屋外に4トンの大型水槽を用いて粗放飼育(低密度、天然餌料投与、無換水)を行ったところ、屋外水槽の粗放飼育群でのみ80%以上(15尾中12尾)の高率で雌個体が得られた。このことから、ウナギの性分化には、様々な環境要因(餌、密度、水質等)がウナギの行動生態の発現と関連して複合的に作用していることが示唆された。 ビデオを用いた行動観察から、成長段階における攻撃行動は性分化期の体長15cmの個体群で最も活発になり、その後は成長に伴って低下した。ストレスの指標である血中コルチゾル量は上記の攻撃行動の変化と並行して、体長13〜15cmの性分化期で高く、それ以後は低値で推移した。このことから、群内の闘争によって生じるストレスがウナギの性分化に何らかの影響を及ぼしている可能性が示された。その他のステロイドについては、血中量および生殖腺でのステロイド合成酵素の免疫組織化学から、性分化には関与しないものと考えられた。 脳での神経ペプチドの免疫組織からは、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の免疫陽性ニューロンの数が、前述の攻撃行動が活発になる性分化期以降、中脳の視索前核で急激に増加した。このことから、GnRHは生殖腺の性分化やなわばり行動に関与している可能性が示された。現在、その他の神経ペプチドのコルチコトロピン放出因子や成長ホルモン放出ホルモンとの関連を検討中である。
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