近年、環境条件の急速な変化に伴い、水圏生物は水温、低酸素、富栄養、環境汚染物質などのストレスを受けていると考えられるが、大型海藻のストレス応答反応についてはほとんど報告されていない。申請者はこれまでに、温度ストレスを受けた不稔性アオサが、性状の異なるグルタミン酸脱水素酵素(GDH)アイソザイムを発現することを明らかにした。しかしながら、海藻のタンパク質含量は極めて低く、GDHアイソザイムの分離が困難なため、これらアイソザイムをコードする遺伝子の単離を試みた。 まず始めに、通常培養(20℃)および温度ストレス(30℃)にさらした不稔性アオサから抽出した全RNAを用いて1本鎖cDNAを調整した。これを鋳型とし、他生物種のGDH遺伝子の塩基配列を参考に作製したプライマーを用いてPCRを行ったところ、不稔性アオサGDHの一部領域をコードするcDNAを得ることができた。 次に、20℃および30℃培養不稔性アオサのmRNAからcDNAライブラリーを構築した。PCRにより得られたcDNA断片をプローブとして、20℃および30℃不稔性アオサcDNAライブラリーのスクリーニングを行ったところ、GDHをコ-ドする複数のcDNAクローンを得ることができた。塩基配列および演繹アミノ酸配列を決定したところ、これらクローンは447アミノ酸から成るGDH-L、およびその161〜186番目の26アミノ酸が欠失したGDH-Sをコードする2種類に分けられた。不稔性アオサおよび高等陸上植物GDHのアミノ酸配列間には約50%の相同性が認められ、基質結合部位と補酵素結合部位は高度に保存されていた。 今後は、不稔性アオサGDH-LおよびGDH-Sをコードする遺伝子の温度ストレスによる発現変化、さらに両GDH間の一次構造の違いが酵素の性状に及ぼす影響について調べる予定である。
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