固着性二枚貝のマガキは、季節、潮の干満、日照などに伴う様々な環境変化に強く曝されることから、そのストレス応答機構は興味深い。細胞管理因子の熱ショックタンパク質HSP70ファミリーおよびユビキチンがそれらの応答に強く関与すると考えられるが、詳細は不明である。本研究では、マガキよりHSP70ファミリーであるHSP70、HSC71、GRP78、及び新規HSP70ファミリー分子種と考えられるHSP68、また、ストレス応答型と考えられるタンデムリピート型ユビキチンのcDNAのクローニングに貝類では初めて成功した。さらに、ノザンブロット分析における発現比較対照としての有効性が期待されるペプチド鎖伸長因子(EF1α)cDNAのクローニングに貝類では初めて成功した。マガキに各種の強度・時間の熱ショックストレスを負荷し、外套膜、閉殻筋、鰓、体幹部における先のmRNAの発現を検討した。得られたマガキEF1αはストレス条件下においても全ての組織で構成的に発現する体細胞型であり、発現対照としての有効性が明らかとなった。 HSC71mRNAが構成的に発現する一方で、HSP70、GRP78、HSP68のmRNAはストレス無負荷では発現がほとんど認められず、ストレス負荷により発現が誘導された。HSP68には5′-UTRの長さの異なる2種類のcDNAを認め、さらにストレス強度に応じてそれらのmRNA発現量は顕著に異なった。また、抗ペプチド抗体を用いて、HSC71はタンパク質レベルでも細胞内に構成的に存在することを認めた。
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