研究概要 |
本年度の課題は,農業バイオテクノロジーをめぐる国際情勢を,インターネット等を用いてフォローしながら,(1)米国農業者およびブラジル農業者の遺伝子組み換え作物に関する意識動向を,現地調査を含めて明らかにする。(2)国際機関とくに国際農業研究協議グループ(CGIAR)のバイオテクノロジー政策と研究開発動向の考察をつうじて,「便益」が途上国農業者に行き渡る可能性を探る,の2点を課題として掲げた。 前者については,8月にブラジル・リオデジャネイロで開催された国際農村社会学会への出席を兼ね,現地調査を行うことができた。ブラジルは米国に次ぐ世界第二の大豆生産国であるが,米国やアルゼンチンが積極的に遺伝子組み換え大豆を導入しているのに対して,国内での栽培認可を凍結し,独自性を出している。これは,最大の輸出市場であるEUでの反対世論の高まりと,バイオ規制政策の強化を受けたものである。国内でも,一部の消費者団体や環境保護団体が活発に運動を展開しており,中高所得層の消費者への安全性論議の浸透は進んでいる。だが,とくに大豆の伝統的生産地域である南部では,主な担い手が中小家族経営であることも重なり,農民層への情報伝達がうまく進んでいない。南部諸州ではGMフリー宣言を発表し,EU諸国の大手流通業者へのアピールも行っているが,隣国のアルゼンチンから違法に遺伝子組み換え種子が流入しており,対策に苦慮している状況にある。ブラジルでは,農業技術の研究開発をEMBRAPAが,その普及と経営指導をEMATERがそれぞれ担当しているが,一方で遺伝子組み換え技術を開発している多国籍企業およびその関連会社も地域レベルで活発な宣伝・普及活動を行っているだけに,これらの政府機関の役割が注目されている。さらに,中央政府内部での見解の対立,司法と行政・議会との対立,中央政府と地方政府の対立,産業界と消費者の対立,大規模経営と中小家族経営の対立などの構図が露呈してきており,今後の利害調整過程に関与するアクターの分布図を描く手がかりを得ることができた。 後者については取り組むことができなかった。それにかわって,OECDや国連機関等を舞台とした米国とEU諸国との間の利害調整過程を詳細にフォローし,分析することができた。
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