これまでの中山間地域問題の研究が農地の傾斜条件への着目が弱かった背景として、施索上の条件不利性の認識と統計上の問題点を指摘しうる。施策上あるいは統計上把握された中山間地域が幅広いとらえ方になっており、農地の傾斜条件を反映させたものとしては、不十分であり、そのため特に東北日本と西南日本で、そもそも異なった傾斜条件の地域を同一の地域として把握しているという弱点がある。既往の研究では、農地条件以外の家族構成や労働市場展開との関係で、中山間地域の農地潰廃問題が考察されてきたが、まずは、農地の条件を同一にしたうえで、構造分析を進める必要がある。そこで、水田の傾斜条件そのものを直接的な指標として、区分を行い、センサスを中心とした統計の組み替え集計により、傾斜水田地帯の構造分析の一部を実施した。その分析結果の概略を示すと、 1.傾斜条件別にみた水田賦存の状況は、これまでの中山間地域区分以上に、日本列島の中で偏在が著しい。 2.全国的にも、各地方(ブロック)別でも、水田潰廃、上層農展開、の動向等の農業構造に傾斜条件が規定的にはたらいていること、 3.しかし、同時に傾斜水田地帯は、都市から遠隔で労働市場展開が遅れ、高齢化も進んだ地域と重複しており、これまでの研究の指摘も妥当性があり、結果だけみれば、農地潰廃要因が複合的であると想定されること、よって、理論的に農地潰廃のメカニズムを考察したのち、実態と合わせた考察が必要であること、 4.同一の傾斜条件の地帯において、地方(ブロック)間の比較をした場合、各農業構造指標について、従来の中山間地域区分による地方差よりも開差は狭まるものの、なお残された格差が存在すること、 等である。
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