研究概要 |
土壌粘土の分散凝集特性 土壌に含まれる粘土粒子の分散凝集特性は,土壌構造の安定性を決定し,さらには透水性,固さ,保水性といった生態系,農学生産に影響を与える土壌因子を左右する.本実験では,関東ローム土を構成する粘土粒子の分散凝集特性について調べた. 一般に行われているような分散剤を用いた処理では,分散剤の使用が粘土粒子の分散凝集特性を変質させてしまうため,水酸化Naを用いて,土壌けん濁液のpHを操作することで土壌試料(関東ローム)の分散を図った.分散後の土壌粘土は,透析して過剰なイオンを取り除いた.粘土けん濁液のままでは,粘土粒子の表面から溶解してしまう恐れがあるため,凍結乾燥し,供試まで保存した. pH,陽イオン(Na,Ca,Mg),陰イオン(CI^-,SO^<2->_4)の組み合わせを条件として,固相濃度3g/Lの粘土けん濁液の分散凝集の様子を調べた.分散凝集の程度は,分光光度計で700nmの光の透過度を測定して判断した.関東ロームに多く含まれるアロフェン,イモゴライトは,通常のpH(5.8〜6.5)では,正の荷電を持つ.本実験では,このpH範囲で粘土けん濁液の分散凝集特性が,陽イオンではなく陰イオンの価数に左右されることを明らかにした.他の多くの粘土鉱物は負の荷電を持ち,分散凝集特性を共存する陽イオンの価数に依存することが知られているが,関東ローム土は,それを構成する粘土鉱物の特性から,共存する陽イオンではなく陰イオンに分散凝集特性が依存することが結論として得られた.この結果から酸性雨の関東ローム土に対する影響を考える場合に,酸性雨の水素イオン濃度(pH)と土壌の緩衝能の議論だけではなく,酸性雨の含む陰イオン(NO_x,SO_x)が,土壌中の粘土粒子の分散凝集特性やさらには土壌のマクロな性質におよぼす影響には留意しなけらばならないと考えられる.
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