研究概要 |
大腸菌の細胞組織への付着機構の一つに,タイプ1型線毛があり,上皮細胞などのマンノースを認識し,細胞へ付着する機能を持つ。このような付着機構は,大腸菌以外の病原菌や,細菌が放出する毒素でも多く見られ,細胞組織へ付着することによって,疾病が引き起こされる原因になる。乳酸菌においては,細胞への付着機能は確認されているが,線毛がないので,このような付着機構をもたないため,その付着性は低いと考えられる。乳酸菌がこのような細胞組織付着性タンパク質を発現することで,ヒト腸管への付着性を高めることが期待される。本研究では,乳酸菌(グラム陽性菌)のヒト腸管定着性を高めることを目的とし,大腸菌由来線毛の付着性タンパク質(FimH)を乳酸菌で発現するように,遺伝子を構築した。 FimHを菌体外へ分泌させ,菌体表層に固定するためにLactobacillus helveticus CP790のプロテアーゼ(prt)遺伝子(山本ら,1999)のシグナル配列とメンブランアンカー配列を利用したFimHを含む融合タンパク質の発現を試みた。すなわち,グラム陽性・陰性菌のシャトルベクターpHY300PLK(Tc^rTakara)にprt遺伝子を導入し,pr遺伝子領域のSpel-Bpu1 102lサイトに,PCRで増幅したfimH遺伝子のフレームを合わせる形で,同方向に組み込んだ(シークエンスで確認)。このプラスミドによる大腸菌のTc^r形質転換体(pHY/prt/fimH株)はFimH抗体に反応した。次に,pHY/prt/fimH株の菌体破砕液を,Rlラベルした大腸菌のCaco-2細胞への付着阻害試験に用いたところ,細胞への付着を競合阻害していた。このことから,pHY/prt/fimH株はFimHを含む融合タンパク質を発現し,細胞付着を獲得したと考えられた。
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