研究概要 |
哺乳動物卵のmaturation-promotingfactor(MPF)とmitogen-activatedproteinkinase(MAPK,ERK)は,減数分裂再開に伴い活性化され第二減数分裂中期(M-II期)には活性型で維持される。そして,受精児の卵活性化刺激によりMPFとMAPKは不活性化される。しかし,卵活性化に伴うMPFとMAPKの不活化が減数分裂から体細胞分裂への移行に関わる機序については未だ詳細には検討されていない。そこで,本研究は,MAPK活性を制御しているMAPK/ERK kinase(MEK)に着目し,ブタ卵活性化へのMAPKカスケードの関与について検討した。 体外成熟卵をMEK阻害剤(10μMU0126)を添加した培地で20時間培養すると,24%の卵で前核形成が誘起され,MAPKとMPF活性の有意な低下(4.5±0.7fmol/min/oocyteと5.3±0.1fmol/min/oocyte)が観察された。一方,U0126無処理の加齢化卵の活性化率は著しく低く(2%),MAPKとMPFの不活化は認められなかった。次に,直流パルス(60V/mm,30μsec,2回)の活性化刺激を与えた卵では,活性化刺激2時間後に第二極体放出卵率が52%に増加し,8時間後には73%の卵で前核が形成された(対照区)。しかし,活性化刺激後の卵をU0126で処理した場合(U0126処理区),前核形成に差異はなかったものの卵活性化に伴う第二極体放出は13%に抑制された。対照区の卵では,活性化刺激直後にMPFの不活性化が起こり,MAPK活性は第二極体放出後の前核形成に伴って徐々に低下した。一方,U0126処理区の卵では,第二極体の放出時には既にMAPK活性が低下しており,MPFとMAPK活性は同時期に不活性化した。以上の結果から,MAPKカスケードはM-II期での減数分裂の停止に関係するcytostatic facto(CSF)の活性化機序に影響を及ぼし,減数分裂から体細胞分裂への移行に伴う第二極体の放出に関わっている可能性が推察された。
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