近年、地球規模での環境汚染が進行し有用動物遺伝子資源の消滅が危惧されている。特に鳥類ではトキなどに象徴される有用希少鳥類が今まさに地球上から消え去ろうとしている。これらの貴重な遺伝資源を復元し保全するためには従来の自然繁殖のみに頼るのは極めて困難である。希少動物の復元や保全をおこなうためには、小数の現存固体から多数の子孫を作出する新たな研究手法の確立が急務である。本研究においてはこの課題を発生工学的手法を用いて解決する基礎研究として、未分化な鳥類生殖細胞株の樹立とその細胞培養および保存法の確立を試みた。さらにこの未分化生殖細胞をドナーとして用い、レシピエント胚へ顕微注入して生殖細胞系列キメラを効率的に作出し、希少鳥類遺伝子資源の復元や保全、また雌雄産み分け技術への応用を試みた。放卵直後の鳥類受精卵から胚盤葉を採取し、比較的未分化な生殖細胞を採取した。これらの生殖細胞をPBSを用いて洗浄し、卵黄を完全に除去した。こうして純度の高い生殖細胞分画のみを分離した。こうして得られた未分化生殖細胞をレシピエン胚に注入後に全胚培養を試みた。作出されたキメラにおいてドナー細胞は、外胚葉、中胚葉、内胚葉の3胚葉の組織または細胞へ分化した。このことから胚盤葉細胞は多分化能を保持する幹細胞であることが明らかとなった。またこのキメラを用いた研究の結果から、胚盤葉明域中央部に生殖幹細胞が局在していることも明かとなった。
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