栄養による性腺活動の調節機構を明らかにする一環として、本年度は肝臓のグルコースセンサーがグルコース利用性を感知し、性腺活動を制御する中枢制御機構であるGnRH分泌調節機構にどのような影響をおよぼしているか検討した。ヒツジの肝門脈に外科的にカテーテルを留置した。一定の回復期間の後、頚静脈より頻回採血(10分毎8時間)を行なった。採血開始4時間後に肝門脈に留置したカテーテルを介して2-deoxy-glucose(2DG)または生理食塩液をマイクロチューブポンプを用いて肝臓に局所的に投与し、肝臓におけるグルコース利用性の低下が血漿中LHのパルス状分泌パターン(GnRH分泌の指標)にどのような影響をおよぼすか観察した。また対照として頚静脈に同量の2DGを全身性に投与し、肝臓への局所投与による影響と比較した。その結果、肝臓に局所的に2DGを投与した群と全身性に投与した群の両群においてLHのパルス分泌頻度が強く抑制されたが、抑制の強さは両群間に有意な差は認められなかった。このことから、肝臓に存在しているグルコースセンサーはGnRH分泌調節に大きく関与していないことが示唆された。前年度の研究において後脳を中心とする第4脳室周囲に存在するグルコースセンサーがGnRH分泌調節に関与していることをすでに示しており、栄養状態の悪化によるグルコース利用性の低下は、むしろ主に脳内に存在するグルコースセンサーによって受容され、GnRH分泌調節機構に伝えられるものと考えられた。
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