平成11年度は、主に症例の収集と症例の病理検索が行われた。収集された症例については、詳細な臨床検査が行われ、一定の神経学的所見が明らかにされているものを対象とした。これらの症例については、剖検時に脳脊髄液を採取・保存し、脳組織については一般病理検索の他、老人斑検出のため過ヨウ素酸メセナミン銀染色(PAM)染色、血管アミロイド検索のためアルカリコンゴレッド染色を施し、脳におけるβアミロイド沈着程度を数値化している。 これまでの検索では、臨床的に神経学的異常のみられたイヌ剖検例の病理学的診断は、(1)脳腫瘍、(2)内臓諸臓器腫瘍の脳転移、(3)加齢による運動失調、等に大別され、このうち(2)、(3)の群でβアミロイド沈着指数が高く、(2)の症例群で比較的βアミロイド沈着率が高く、かつ年齢が若齢であるという傾向が認められている。平成12年度は本検索を継続し、より多数例による検討をすすめ本傾向の有意性を明らかにしたいと考える。 また平成11年度には、過去に収集されていた脳脊髄液の検索も平行して進められた。本年度は、モルモットへの脳内接種実験、電気泳道による検索、脳組織やアミロイドβ蛋白に対する脳脊髄液内抗体について検索がおこなわれたが、現段階までには特記すべき結果が得られていない。ただし、本研究の遂行中に偶発的に原因不明の神経疾患であるイヌ壊死性脳炎の数症例に星状膠細胞に対する事故抗体が脳脊髄中に存在することが初めて明らかにされ、米国の学術雑誌にその内容を公表した。脳脊髄液の研究については、平成11年度に収集された症例の脳脊髄液についてさらに検索して行う予定にしている。
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