研究概要 |
多包条虫の成虫虫体抽出抗原に対して作成されたモノクローナル抗体、EmA9は、糞便内抗原検出による多包条虫終宿主の診断薬として有用であることが示され、また、排出される糞便内抗原価の経時変化をみることにより、実験感染における寄生虫体数を把握できる。札幌近郊で駆除された野生キツネの剖検結果と直腸便を用いた糞便内抗原検出結果を比較した結果、寄生虫体数と糞便内抗原価には相関(r=0.779,P<0.01)が見られ、糞便内抗原価が寄生虫体数の指標となることがわかった。 多包条虫の代替終宿主ゴールデンハムスターにおける防御免疫応答を観察するため、再感染実験(1回および3回免疫感染)および経口免疫実験(成虫および原頭節虫体抽出抗原ならびに成虫排泄分泌抗原をアジュバント(cholera toxin)と共に経口投与)を行った。再感染群の免疫感染時に虫体が定着したことの確認は糞便内抗原価を測定することによって行った。各群はチャレンジ感染後3日目に剖検した。諸感染群に対する各群のチャレンジ感染後の回収虫体数は、再感染群で顕著に少なかったが、経口免疫群に差は認められなかった。再感染群においては、各種抗原に対する血清IgG、IgAおよび腸管内洗浄液中のIgA抗体価の上昇が認められた。一方、経口免疫群においては、どの抗原で免疫した群も、成虫排泄分泌抗原に対する血清IgG抗体価の上昇のみが観察され、腸管内洗浄液中のIgA抗体価の上昇はみられなかった。また、回収虫体数と腸管洗浄液中のIgA抗体価を比較したところ、ELISAのOD値が0.6を越える固体はすべて回収虫体数が少なかった。以上、多包条虫再感染時に回収虫体数の顕著な減少が観察され、代替終宿主における再感染防御と多包条虫虫体抗原に対する全身の血清IgGおよびIgA応答ならびに局所における腸管内IgA応答との関連が示唆された。
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