研究概要 |
脳室周囲白質軟化(PVL)は未熟児における脳性麻痺の主因であり,その成因の解明と予防法の確立は周産期医学の臨床上最も重要な課題の一つである.これまでに我々は,妊娠ヒツジの子宮内慢性実験系を用いて,PVLの主因と推察されている全身性低血圧をヒツジ胎子に負荷することにより、PVL類似の病変を誘発する比較的再現性の高い実験系を確立している.本年度は,実験系の完全な確立と誘発される中枢神経系病変の詳細な把握と,ヒツジ胎子における深部大脳白質の動脈走行・分布がヒトの胎児のそれと一致するか否かを確認する目的で実験を行った. その結果,全身低血圧を負荷したヒツジ胎子10例中7例で側脳室周囲白質に限局する病変を認めた.すなわち,ミクログリア/マクロファージ反応を時に伴う巣状壊死性病変とその周囲領域における軸索膨化を5例で,軸索の膨化のみからなる白質病変を2例で認めた.また,膨化軸索は抗アミロイド前駆蛋白(APP695)抗体を用いた免疫染色で陽性を呈し,ヒトのPVL症例でみられる変化と一致した.負荷例の海馬を含む他の領域および脱血と同時に血漿成分のみを戻し輸血し,低血圧を負荷しなかった対照例では,著変を認めなかった.また,病変を認め得なかった3例は,胎齢は計算上では一致していたものの(1回交配によって),その脳重は病変形成が認められた症例群と比して重い傾向があり,脳(白質)が比較的発達していた可能性が示唆された. また,ヒツジ胎子における深部大脳白質の動脈走行・分布を超軟X線脳血管造影法によって検索した結果,実験実施胎齢のヒツジ胎子脳の深部大脳白質の動脈走行と分布はヒトのそれと一致し,髄質動脈の終末ならびに境界領域になっており,血管の分布も疎であることが確認できた.
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