新型H5インフルエンザウイルスのヒトへの感染性の分子基盤、つまり宿主域決定因子の解明のために、新型ウイルスの赤血球凝集HA蛋白の役割について研究を進めた。新型ウイルスのHA遺伝子を発現ベクターにクローニングし、培養細胞上にHA蛋白を発現させたところ、ヒトとニワトリ両方の赤血球を吸着させることが明かとなった。一方、ヒトには感染しない従来型のH5トリウイルスのHA蛋白も同様にして培養細胞上に発現させたところ、ニワトリの赤血球のみが吸着した。したがって、新型ウイルスHA蛋白のヒト細胞への感染性とヒト赤血球吸着性との相関性が考えら、その分子基盤について考察した。昨年、両ウイルスHA蛋白間のキメラ蛋白を構築し、解析した結果、レセプター結合領域近傍における糖鎖付加構造の違いが、それぞれの赤血球吸着性を規定しているものと推測された。そこで、部位突然変異法により新型ウイルスHA蛋白に糖鎖を付加した変異体、および従来型ウイルスから糖鎖を欠損させた変異体を発現させ解析したところ、糖鎖付加によりHA蛋白とレセプターとの結合力は変化するが、その特異性を決定するものではないことが明らかになった。両ウイルスHA蛋白の間には、そのレセプター結合ドメイン内にいくつかのアミノ酸置換が存在する。したがって、それらの違いが新型ウイルスHA蛋白のヒト赤血球に対する吸着性、言い換えれば新型ウイルスのヒトへの感染性を規定している因子の一つである可能性が考えられた。
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