作物生産の持続性を考慮する場合、リン肥料の原料となるリン鉱石の枯渇が深刻な課題として懸念される。一般に、作物によるリン酸肥料利用率は10%以下と低く、そのほとんどは土壌に難溶態として蓄積している。日本はリン資源を100%輸入に頼っているが、リン資源の有限性を考慮すれば、土壌蓄積性の難溶性リンを作物に如何に利用させるかが重要となってくる。本研究では、主要な難溶性リン酸(Al-P、Fe-Pおよびフィチン酸)を添加した土壌をモデルとして数種マメ科作物に菌根菌を接種し、その生育反応ならびにリン吸収能を比較した。遺伝的に菌根形成能を欠損したルーピンを除いて、ラッカセイ・キマメ・ダイズのリン吸収能は菌の接種で増加し、特に前2者のリン吸収能は6倍・10倍にまで著しく増加した。この結果、ラッカセイとキマメの生育量は接種によって大きく増加したが、ダイズ生育量の増加は有意ではなかった。そこで、ラッカセイとキマメを用いて、上記3種の難溶性リン酸の中でいずれのものが菌根形成によって可溶化されたのかを調査した。その結果、キマメにおいては、いずれの難溶性リン酸も同程度で吸収能が向上し、その機構として菌根形成が根長を著しく増加させたためであることを明らかにした。一方、ラッカセイにおいては、Al-P・Fe-Pの利用能が単位根長あたりのリン吸収能の増加によって促進されたが、フィチン酸の利用能は菌根形成によっては向上しなかった。これは、非接種個体においても接種個体と同程度のリン吸収能を示したためであり、ラッカセイが菌根に依存しなくてもフィチン酸を利用する能力が高いことを示している。
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