我々がクローニングしたセリンプロテアーゼ・ニューロプシンの妊娠子宮脱落膜化に伴う形態学的リモデリングにおける生理的機能を明らかにする目的で、平成11年度は妊娠子宮におけるニューロプシン発現誘導機構に関する解析を行った。ニューロプシン遺伝子は妊娠時においてのみ脱落膜化した子宮内膜細胞に発現することから、その発現は、(1)ホルモンの変化、(2)内膜細胞の脱落膜化、(3)胎仔の着床、のいずれかが引き金となって引き起こされるものと考えられる。そこで私は、ホルモンのみ妊娠状態へ移行する偽妊娠マウス、及びホルモンの変化に加えて内膜細胞の脱落膜化も生じるが胎仔の存在しない脱落膜腫形成マウス、という2種類のモデルマウス子宮におけるニューロプシン発現を検討した。その結果、ニューロプシン遺伝子発現は偽妊娠マウス子宮では認められないものの、脱落膜腫形成マウスでは認められることをRT-PCR法及びin situハイブリダイゼーション法により確認した。また、その発現は脱落膜化した子宮内膜細胞に限局しており、発現の程度は脱落膜化の程度と一致することも明らかとした。更に、蛋白発現の指標であるニューロプシン酵素活性についても脱落膜腫形成マウス子宮にのみ認められ、脱落膜化が激しいほどニューロプシン活性が高いことを確認した。以上の結果から、妊娠子宮におけるニューロプシン発現誘導はホルモンの変化のみでは生じず脱落膜化を必要とすること、また、胎仔の存在は必要ではないことが示された。ニューロプシン発現は脱落膜化が引き金となって引き起こされるという今回の結果を踏まえ、平成12年度はニューロプシン遺伝子欠損マウス子宮における脱落膜化を検討することで、妊娠子宮におけるニューロプシンの機能をより詳細に検討する予定である。
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