研究概要 |
我々は、今回、液胞型プロトン輸送性ATPase(V-ATPase)を構築すると考えられる神経系特異的新規遺伝子の研究を行った。まず、ラット脳のcDNAライブラリーをスクリーニングして、完全長のV-ATPaseサブユニットNV-M9.2を得た。NV-M9.2は、全長1,300bpからなり、243bpにより規定されるオープンリーディングフレームを含んでいた。81アミノ酸からなる推定一次構造には、2ヶ所の膜貫通部位とその間の親水性領域、親水性のC末端中には糖鎖結合可能部位の存在が推測された。完全長の同定の結果、このクローンは、1998に報告のあったウシのクロマフィン顆粒膜から単離されたM9.2とアミノ酸レベルで57%の相同性を示し、一次構造においても同様の性質を有していることが判明した。さらに、マウスのNV-M9.2およびM9.2を同定し、NV-M9.2がM9.2とは異なる新規の遺伝子であることを確認した。次に、マウスにおける両遺伝子のmRNAの臓器分布を検索し、M9.2遺伝子のmRNAが検索した全ての臓器に広く分布しているのに対し、NV-M9.2は脳のみに特異的に発現しており、NV-M9.2は、体内に広く分布しているM9.2とは別の、神経系に特異的に発現しているM9.2に対応するV-ATPaseサブユニットであることが推測された。また、NV-M9.2が脳内のどんな神経核に分布し、どのようなトランスポーターと共存しているかを検討するため、脳を含む神経系におけるNV-M9.2mRNAの詳細分布を検索した。脳において、NV-M9.2mRNAは広範に分布しており、特に嗅球、梨状葉、大脳皮質、扁桃体、脳弓下器官、視床核群、海馬、視床下部、乳頭体核、結節乳頭核、脚間核、橋核、上丘、下丘、動眼神経核、赤核、黒質、小脳皮質、青斑核、縫線核、顔面神経核、蝸牛神経核、前庭神経核、舌下神経核では強い発現が認められた。
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