我々は、昨年同定した液胞型プロトン輸送性ATPase(V-ATPase)を構成すると考えられる神経系特異的新規遺伝子の研究を今年度も継続して行った。この遺伝子NV-M9.2は、多くのサブユニットからなるV-ATPaseの膜内ドメインに存在するM9.2サブユニットと高い相同性を示す神経系特異的な新規遺伝子である。従来より、神経系におけるV-ATPaseは、シナプス小胞において小胞トランスポーターを介した神経伝達物質のシナプス小胞内への取り込みに不可欠であることが知られている。また今年になって、神経伝達物質放出時のシナプス小胞膜と細胞膜との癒合にも重要なはたらきをしているとの報告があった。そこで今年度我々はこのNV-M9.2と他の関連遺伝子、すなわち小胞グルタミン酸トランスポーター1(VGluT1/BNPI)ともう一つの小胞グルタミン酸トランスポーターと推測されるdifferentiation-associated sodium-dependent inorganic phosphate transporter(DNPI)、V-ATPase a1サブユニット、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)、小胞GABAトランスポーター(VGAT)との脳内でのmRNAの共存を検索した。その結果、NV-M9.2mRNAは、特に嗅球、梨状葉、大脳皮質、扁桃体、脳弓下器官、視床核群、海馬、視床下部、乳頭体核、結節乳頭核、脚間核、橋核、上丘、下丘、動眼神経核、赤核、黒質、小脳皮質、青斑核、縫線核、顔面神経核、蝸牛神経核、前庭神経核、舌下神経核では強い発現が認められ、これは、V-ATPase a1の分布と重なりあっていた。また、2つのVGluT、VMAT2ならびにVGATとも共存が認められ、このV-ATPase NV-M9.2サブユニットは脳内の様々な種類の神経伝達物質の放出に関わっていることが推測された。脳内におけるV-ATPaseの詳細な解析は、神経伝達物質放出機構を含む神経系の全容解明に不可欠であると思われる。
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