本年度の研究実施計画に沿って、Wistar系雄性ラット嗅上皮からRT-PCR法により、嗅覚型Gタンパク(Golf)、嗅神経特異タンパク(OMP)、および嗅覚関連薬物代謝酵素の一つであるグルタチオンS-トランスフェラーゼμ(GST)のcDNA断片を作製し、それらのcDNA断片をプラスミドベクターに組み込み、in vitro transcriptionにより非放射標識cRNAプローブをそれぞれ作製した。次に嗅粘膜性嗅覚障害モデルとして、亜鉛欠乏餌料飼育ラット実験群と対照群との嗅上皮のパラフィン包埋切片をそれぞれ作製し、上記のcRNAプローブを用いたin situハイブリダイゼーションと、市販のGolf抗体、神経特異エノラーゼ(NSE)抗体、およびGST抗体を用いた免疫細胞化学を施行した。その結果、嗅細胞に局在が認められるGolf mRNAおよびタンパク、OMP mRNA、NSEタンパクの発現細胞数および1細胞あたりの発現量には、実験群と対照群との間に有意差は認められなかったが、支持細胞に局在が認められたGST mRNAおよびタンパクの発現細胞数および発現量に有意な減少が実験群において認められた。これらのことから、亜鉛欠乏性嗅覚障害は、嗅細胞の障害を誘発しないが、支持細胞に存在するGSTの発現を減少させることにより、匂い物質や嗅上皮更新細胞の遺残物等の代謝系に障害を誘発し、二次的に嗅覚障害を助長する可能性が示された。 次年度は、本モデルを用いたGST以外の嗅覚関連薬物代謝酵素の解析、および亜鉛欠乏以外の嗅覚障害モデルによる本年度と同様な解析を続行すると同時に、分子生物学的手法により新たな嗅覚障害誘発因子の検索を行う予定である。
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