研究概要 |
研究課題は大脳基底核スライス標本による黒質ドパミン作動性ニューロンのドパミン放出に関するものであるが、脳スライス標本に習熟するため、まず、海馬スライスのCA-1領域の神経伝達(neurotransmission)におけるトランスミッターの放出とその調節機構についての研究を手がけた。今年度初頭にようやく実験に使用できる海馬スライス標本の作製に成功し、目的とする神経伝達とその応答機構についての取り組みが始まった。 実験ではCA-1領域に投射するニューロンとしてSchaffer側枝に刺激電極を当て、CA-1領域の錐体細胞(pyramidal cell)での応答をフィールド電位記録した。単一電流刺激(100 μs)によって興奮性後シナプス電位(EPSP)と集合電位スパイク(population spike)が記録された。また、テタヌス刺激(100 Hz,1 sec)によっては、集合電位スパイクの長期増強(LTP)が観察された。また、パッチクランプの手法を用いて、錐体細胞に接触した電極によってホールセル(whole-cell)状態を形成し、Schaffer側枝刺激に応答する内向き電流が記録された。さらに、直接、錐体細胞への脱分極刺激によってはNa^+電流とK^+電流が記録された。Schaffer側枝と錐体細胞での神経伝達はグルタミン酸によるものである。今後グルタミン酸の電気泳動投与刺激による錐体細胞の電気応答の記録を行うことで、種々の薬物のグルタミン酸放出に対する作用の解析が可能となる。したがって今後の研究は神経からの伝達物質の放出機構とその調節の解明に大きく役立つものと思われる。
|