本研究では、胃酸分泌細胞の基底側膜に存在する細胞防御塩素イオンチャネル(Cl^-チャネル)の電気生理学的および分子生物学的研究を行い、以下のような数々の興味深い新知見を得た。 1.これまでにウサギ胃酸分泌細胞基底側膜の細胞防御Cl^-チャネルがプロスタグランジンE_2を介した一酸化窒素産生により活性化されることを発見しているが、このチャネルがウサギ以外の動物にも普遍的に存在するものなのかどうか不明であった。本研究で、ラット胃酸分泌細胞にも同様なCl^-チャネルが存在し、プロスタグランジンE_2により活性化されることを電気生理学実験により証明した。 2.ウサギ胃酸分泌細胞を単離、精製し、mRNAを調製した。CLCファミリーに属する全Cl^-チャネルのcDNA配列をもとにdegeneratedプライマーを作製し、RT-PCRを行ったところ、CLC-2とCLC-5の部分配列が確認できた。ノーザンブロットによっても、CLC-2とCLC-5のmRNAの発現が明瞭に観察された。これまでにCLC-5遺伝子の主な発現は腎臓において確認されているが、胃において確認されておらず興味深い。これらのチャネルが、一酸化窒素感受性Cl^-チャネルの分子的実体であるのかどうかについて研究を進めている。 3.ウサギ胃酸分泌細胞における電気生理学的実験で、一酸化窒素と反応しその効果を消失させるスーパーオキシドアニオンが、インターロイキン-1βにより産生されることがわかった。胃におけるインターロイキン-1β生成には、ヘリコバクターピロリ菌が密接に関与しており、細胞防御機能との関連性について検討を進めている。
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